新華社記者が執筆したこの記事は、習近平国家主席が『解放軍報』創刊70周年に寄せた祝電をベースに、軍の宣伝部門が「強軍思想」の徹底とネット上の「思想の陣地防衛」を誓う内容だ。だが、この教条主義的な国内向け発信の裏で、解放軍の海外SNS戦略は躓いている。
海外SNSで露呈した「適応力の欠如」
中国国内では「グレート・ファイアウォール」による情報統制下で、共産党・解放軍のナラティブを独占的に発信できる。『求是網』の論評も、習近平の「強軍思想」を軍内に浸透させる意図で書かれたものだ。
ところが海外では別だ。近年、X(旧Twitter)に登場した解放軍の公式アカウントは数万のフォロワーを獲得し、洗練された演習映像を英語で発信している。しかし、「国際社会からの理解」という目的に照らすと、惨憺たる状況と言わざるを得ない。
投稿の大半は共産党スローガンの直訳で、X上では嘲笑の的となっている。
国防部アカウント(@MND_China)には「ゴミ投稿を吐き出す偽アカウント」「稚拙な脅し」といった辛辣なリプライが殺到。開設直後には重複投稿でスパム判定を受けた。党の思想統制が国際プラットフォームに全く適応できていないのだ。

「党への忠誠」が海外広報を殺す
この失敗の根源は「強軍思想」一辺倒にある。軍内の思想教育を優先するあまり、広報の評価基準が「党への忠誠」に固定され、海外広報に必要な柔軟性を失った。
国内向け宣伝部門の人事評価は「思想的正統性」が基準になる。海外SNS担当者にも適用されるため、「党の方針を正確に伝える」ことが最優先され、「現地の受け手にどう響くか」という視点は消える。アルゴリズムへの無理解も、この硬直したシステムの産物だ。
この矛盾は、中国が推進する「三戦」(世論戦・心理戦・法律戦)の脆弱性を物語る。
日本では「三戦」の脅威ばかりが語られるが、注視すべきは構造的制約だ。宣伝部門が国内向けナラティブをそのまま海外に流せば、それは単なる「プロパガンダの輸出」でしかない。
SNSに小慣れた層からは、上述のとおりオモチャにされる。
日本が読み解くべき「弱点」と「進化の兆し」
もちろん、解放軍の海外SNS工作は初期段階にある。今後はより巧妙に、より洗練された「ソフトな発信」へと進化する可能性が高い。その僅かな変化を見落とさないためにも、継続的な観察が必要だ。
重要なのは、当局によるプロパガンダを単なる「毒」として切り捨てるのではなく、その中に含まれる「真意」や「構造的弱点」を読み解くことだ。今回の事例が示すのは、中国の情報戦能力には技術的洗練さと並行して、思想統制に起因する本質的な限界が存在するという事実である。
日本としては、この構造的制約を理解した上で、中国の情報戦の進化を冷静に追跡し、効果的な対策を講じることが求められるだろう。特に注視すべきは、党の統制が緩和される兆候や、海外SNS担当部門の独立性向上の動きだ。これらは「三戦」の実効性が飛躍的に高まるシグナルなのだ。

