米国政府説明責任局(GAO)が2026年1月にまとめた報告書で、連邦捜査局(FBI)が犯罪の事実的根拠を必要としない「アセスメント」と呼ばれる調査手法を用い、2018年から2024年にかけて政治家、記者、宗教指導者ら約1,200件を対象に情報収集を行っていたことが明らかになった。報告書は「公用限り」に指定され、不要になり次第破棄するよう指示されていたが、独立系メディアのラケットニュースが入手して2月12日に報じ、リバタリアン系シンクタンクのケイトー研究所が全文をウェブ上で公開した。
正規の捜査を迂回する「低い敷居」
事実的根拠とは、「犯罪や国家安全保障法上の脅威の可能性を示す申立て、報告、事実または状況」を指し、裁判で使えるような証拠である必要はなく、何らかの疑いが持たれると判断できる事実関係があればよいとする、比較的低い基準を指す。他方のアセスメントとはその基準すら満たさず、フリーハンドに近い。
アセスメントは、2008年に策定された「国内FBI活動に関する司法長官ガイドライン」に基づく調査手法を指す。「正当な目的と明確な目標」さえあれば、調査を開始できる。物理的な監視、秘密情報提供者の活用、電子通信の照会書といった手法が、犯罪の嫌疑がない段階から使用可能となる。
GAO報告書によれば、同期間にFBIが開始したアセスメントは約12万7,000件に上る。大半は犯罪や国家安全保障上の脅威に関する情報収集を目的とする「タイプI/II」で、約12万4,000件。地域の脅威評価を行う「タイプIII」が約2,800件だった。このうち全体の約86%は捜査に移行することなく終結しており、FBI側も「多くの情報が信頼に足らないと判断され、アセスメント段階で終了する」と説明している。
「機微」対象の48%が正規捜査に移行
問題は、政治家や記者、宗教指導者など「機微な調査案件(SIM)」に指定された対象の扱いだ。SIMに分類されたアセスメントは約1,200件(タイプI/IIが約1,100件、タイプIIIが約100件)で、内訳は公職者が500件超、宗教団体・指導者が150件超、政治団体・関係者が100件超、報道機関・記者が50件超、学術関係者が約50件であった。
注目すべきは、SIM対象のアセスメントの48%が正規の捜査に移行している点だ。全体の移行率14%と比較すると3倍以上であり、「機微」とされる対象ほど、アセスメントが捜査の入り口として機能している実態がうかがえる。
コンプライアンス面でも問題が指摘された。2018年から2024年に審査された988件のアセスメントのうち、約5%で正当な目的を欠き、約7%で未承認の調査手法が用いられていた。こうした違反は56カ所のFBI支局のうち24カ所で確認されている。しかもFBIは職員の自己申告に依存しており、GAOは実際の違反件数が過少に報告されている可能性を指摘した。
独立系メディアが相次ぎ報道
本件を最初に報じたのは、ニュースレター系メディア「ロケットニュース」だ。その後、多くの独立系・専門メディアが相次いで取り上げた。ケイトー研究所の上級研究員パトリック・エディントン氏(元CIA分析官)は、FBIのアセスメント濫用は外国情報監視法(FISA)702条による電子監視と同等かそれ以上の「権利章典に関わる危機」であると警告している。
もともとこのGAO調査は、下院監視委員会のジェイミー・ラスキン議員(民主党)とナンシー・メイス議員(共和党)が2022年に超党派で要請したもの。犯罪の証拠なく市民を調査できる権限と、その監督体制の不備は、米国内で党派を超えた懸念を集めている。報告書が「読んだら破棄せよ」と記されていたこと自体が、この問題の政治的な機微さを物語っている。

