米司法省がエプスタイン文書350万ページを公開──浮かび上がる「情報工作」の影

米司法省がエプスタイン文書350万ページを公開──浮かび上がる「情報工作」の影

Title: U.S. DOJ Releases 3.5 Million Pages of Epstein Documents — Shadows of an Intelligence Operation Emerge

Summary: On January 30, the U.S. Department of Justice released over 3 million additional pages of documents related to Jeffrey Epstein, bringing the total to approximately 3.5 million pages under the Epstein Files Transparency Act. The documents contain references to numerous political, business, and royal figures worldwide. Beyond the sex-trafficking case, the files reveal a troubling security dimension: FBI informant reports describe Epstein employing hackers specializing in zero-day exploits, while hidden cameras were found in his residences — suggesting an organized infrastructure for recording and potentially blackmailing high-profile guests. With over 1,000 references to Putin and nearly 10,000 to Moscow, ties to foreign intelligence services, including allegations of a KGB-linked honeytrap operation, raise fundamental questions about how democracies can defend against intelligence operations that exploit human vulnerabilities.


米司法省は1月30日、ジェフリー・に関する300万ページ超の文書を追加公開した。動画2,000本以上、画像約18万枚を含み、累計で約350万ページにのぼる。2025年11月成立の「エプスタイン・ファイル透明化法」に基づく措置で、ブランチ司法副長官は「文書精査は完了した」と宣言した。

性犯罪事件の記録公開としては異例の規模だが、そこから見えてくるのは、単なる富豪の犯罪にとどまらない安全保障上の深刻な構図だ。

350万ページが明かした「交友録」

文書の出所は、フロリダ・ニューヨーク両州の裁判記録、共犯者マクスウェルの事件資料、エプスタインの獄中死に関する捜査記録、複数のFBI捜査、司法省監察総監の調査報告と幅広い。500名超の弁護士が精査にあたり、被害者の個人情報や児童虐待資料は除外された一方、「著名人や政治家の名前は墨消ししなかった」とブランチ副長官は明言している。

文書にはトランプ大統領、クリントン元大統領、ビル・ゲイツ、イーロン・マスク、ラトニック商務長官、英国のアンドルー元王子など、各国の政財界・王室に連なる人物の名前が大量に登場する。ただし注意すべきは、名前があること自体が犯罪への関与を意味するわけではないという点だ。多くは知人や面会者としての記録にすぎない。

それでも波紋は即座に広がった。スロバキアのラジュチャーク国家安全保障顧問は翌日に辞任し、英国のマンデルソン卿は労働党を離党。各国で政治的余震が続いている。

専属ハッカーなど搾取と恐喝を支えたインフラ

エプスタインの手口は、プライベートジェットやカリブ海の私有島、ニューヨーク・フロリダの邸宅を舞台にした組織的なものだった。「仕事の紹介」や「キャリア支援」を餌に若い女性を勧誘し、モデルエージェントなどの仲介者が各地から被害者を送り込んだ。共犯者マクスウェルは被害者の服装や振る舞いまで管理し、有力者の好みに「最適化」していたとFBI証人は述べている。

安全保障の視点でとりわけ不気味なのは、こうした搾取を支えたテクノロジーの存在だ。被害者の一人マリア・ファーマーは、ニューヨークの邸宅にある隠し扉の奥の「メディアルーム」で、複数のモニターにトイレや寝室の映像が映し出されていたと証言した。2006年にはパームビーチの自宅から隠しカメラが発見されている。

さらに今回の文書では、エプスタインがゼロデイ攻撃やサイバー監視に関わる「専属ハッカー」を雇っていたとするFBI情報提供者の報告も公開された。島の監視技術と合わせれば、招待した要人にスキャンダルとなる行為をさせ、それを密かに録画・保存する──いつでも脅迫に使える『弱み』を組織的に量産する仕組みが構築されていた可能性が浮かぶ。

要人の脆弱性と制度への不信

この事件が国家安全保障の文脈で語られるのは、エプスタインの活動が外国の諜報機関と結びついていた疑いがあるからだ。

英デイリー・メール紙は米英の情報筋の話として、エプスタインがKGBと連携した「史上最大のハニートラップ作戦」を展開していたと報じた。

公開文書にはプーチン大統領への言及が1,056件、モスクワへの言及が9,629件確認されている。2011年のメールには「プーチンとの面会」の計画が記され、エプスタインは米露間の外交仲介役すら買って出ていた形跡がある。元イスラエル首相エフード・バラクとの密接な関係や、バラクが率いた監視技術企業への投資も、諜報世界との接点を示唆する。

こうした記録は、各国の現職・元職の要人がどれほど脆弱な立場に置かれていたかを浮き彫りにする。エプスタインとの接触が記録された人物は、たとえ直接的な不正がなくても、他国からの脅迫リスクを再評価される対象となりうる。

そして最も根深い問題は、なぜ彼が数十年にわたって司法の手を逃れ続けたのかという点だ。2008年に有罪判決を受けた後もエプスタインの人脈は広がり続け、米情報機関が監視していたにもかかわらず、実効的な介入は行われなかった。

政府機関がエプスタインを「協力者」として利用していたのではないかという疑念は根強く、公的機関への信頼を大きく損なっている。350万ページの文書解読はまだ始まったばかりだが、この事件が突きつけているのは、「人的脆弱性を突く情報工作」に対して、民主主義国家の制度はどこまで耐えられるのかという問いにほかならない。

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Seculigence Editorial Department