2026年1月23日に公表された国家防衛戦略(NDS)は、トランプ政権が2025年1月に発表した国家安全保障戦略(NSS)を軍事面で具体化した文書だ。NSSが打ち出した「America First(米国第一主義)」「Peace Through Strength(力による平和)」「Common Sense(常識)」の三原則を、国防分野で実行するための作戦計画といえる。特筆すべきは、国防省を「Department of Defense」から「Department of War(戦争省)」へと改称した点で、戦闘重視への明確な回帰を象徴している。
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「デラウェア川を渡るワシントン」が象徴する戦略の本質
NDSは結論セクションの冒頭に、エマニュエル・ロイツェの名画「デラウェア川を渡るワシントン」を配している。この絵画が描くのは1776年12月の独立戦争の転換点となった作戦で、中央に立つジョージ・ワシントンとともに、後にモンロー主義を唱えるジェームズ・モンローも描かれているとされる。トランプ政権が掲げる「モンロー主義へのトランプ補足条項」——西半球における米国の絶対的優位性の回復——という戦略の核心を、建国の父たちの姿が象徴している。
戦略の四本柱——選択的関与への転換
NDSは四つの主要な取り組み分野で構成される。
第一に米国本土防衛の最優先化。「ゴールデンドーム」ミサイル防衛システム構築、麻薬テロリスト対策、そしてパナマ運河、「米国湾(メキシコ湾の新呼称)」、グリーンランドへの米国アクセス保証を明記した。
第二にインド太平洋における「対決ではなく力による中国抑止」。第一列島線沿いの拒否的防衛を構築しつつ、人民解放軍との「より幅広い軍対軍コミュニケーション」を強調。「我々の目標は中国を支配することではない」と明記し、対中融和姿勢を示している。
第三に同盟国への負担分担要求の大幅強化。NATO加盟国にGDP5%(軍事支出3.5%、安全保障関連支出1.5%)という現行目標の2.5倍の新基準を設定。欧州、中東、朝鮮半島で同盟国が「主要な責任」を負い、米国は「重要だがより限定的な支援」に徹する体制への移行を宣言した。「模範的同盟国」との協力を優先し、防衛協力に差をつける方針も明示している。
第四に防衛産業基盤の「国家的動員」レベルでの強化である。
バイデン戦略からの決定的断絶
本戦略は2022年バイデン政権NDSと根本的に異なる。バイデン戦略が民主主義対権威主義という価値観の対立を掲げたのに対し、トランプ戦略は国益追求の実利主義を前面に出す。最も象徴的なのは欧州・ウクライナ関与の大幅縮小だ。戦略は「非米国NATO諸国のGDP26兆ドル、ロシア2兆ドル」と図表で示し、欧州NATOの経済規模がロシアの13倍であることを強調。「モスクワは欧州覇権を目指す立場にない」と断じ、欧州の自律的防衛を要求した。
ウクライナ支援については「これは何よりもまず欧州の責任だ」と明記している。また「地球の反対側での政権転覆と国家建設」「規則に基づく国際秩序のような雲をつかむような抽象概念」という表現で、過去の米国外交とリベラル国際秩序を痛烈に批判した。
日本・東アジアへの多層的影響
日本への影響は深刻な二面性を持つ。肯定面では第一列島線での拒否的防衛構築により日本の戦略的価値が再確認される。だが懸念は重大だ。
第一に韓国への対応。戦略は韓国が「米国からの重要だがより限定的な支援を受けて、北朝鮮を抑止する主要な責任を負う能力がある」と明記し、「朝鮮半島における米軍の態勢を更新する」と述べて在韓米軍削減の可能性を示唆した。これは北東アジアの安全保障環境の根本的悪化を意味する。
第二に台湾問題。戦略は台湾への具体的言及が皆無で、中国との「戦略的安定」と「衝突回避」を強調している。ブルームバーグが1月24日に報じた台湾への武器売却凍結検討と符合し、米中「取引」の可能性を示唆する。
第三に日本への直接的負担要求。GDP5%基準は現在の約1%から5倍増、年間約25兆円の増額を意味する。日本が応じなければ安全保障協力縮小のペナルティが待つ。
NDSによって、日本は戦後最大の戦略的岐路に立っている。米国の「核の傘」への依存を減らし、自律的防衛能力の抜本的強化が不可避だ。同時に豪印ASEAN諸国との多層的協力を深化させ、米国関与縮小に備えたヘッジ戦略の構築が急務となっている。トランプ政権の「モンロー主義への回帰」は、日本に米国依存からの痛みを伴う自立を迫っている。

