米国、対中AI半導体輸出を「条件付き許可」へ方針転換——「禁輸」から「管理された収益化」へ

米国、対中AI半導体輸出を「条件付き許可」へ方針転換——「禁輸」から「管理された収益化」へ

米国商務省産業安全保障局(BIS)は1月14日、中国向けの高性能AI半導体の輸出審査方針を大幅に改定した。これまで「原則不許可(Presumption of Denial)」としていた方針を転換し、一定の条件を満たせば「ケースバイケースで許可を検討する」という新たな枠組みを導入した。対象となるのはNVIDIA H200やAMD MI325Xといった、生成AIの基盤となる最先端チップだ。

方針転換の核心:何が変わったのか

今回の改定は、米国の対中半導体政策における大きな転換点だ。バイデン政権下で構築された輸出規制体制は、中国のAI開発能力と軍事近代化を遅らせることを目的に、高性能チップへのアクセスを厳しく制限していた。しかしトランプ政権は、この「全面的な封じ込め」路線を修正し、「管理された利益確保」という新たなアプローチを採用した。

BISが発表した新規則では、輸出許可を得るために以下の4つの条件が課される。

加えて、トランプ大統領は同日、これらの先端AIチップに対して25%の関税を課すことを発表した。この関税は、中国向けに輸出されるチップが米国内での第三者検証のために一時的に米国を経由する際に適用される。つまり、台湾のTSMCで製造されたH200チップは、中国に出荷される前に米国内のラボでテストを受ける必要があり、その段階で関税が発生する仕組みだ。

この政策の背景には、トランプ政権の「ディール(取引)」重視の姿勢がある。NVIDIAのジェンスン・ファンCEOは数か月にわたってホワイトハウスへのロビー活動を展開し、昨年12月にはトランプ大統領との直接会談も実現させた。その結果、完全な禁輸措置から「高値で売りつけてその利益で米国の優位性を強化する」という、より実利的な戦略へ転換したのでだ。

対象チップの技術的位置づけと「TPPスコア」基準

今回の規制緩和対象となるNVIDIA H200とAMD MI325Xは、いずれも「AIアクセラレータ」と呼ばれる、生成AI時代の中核を担う半導体である。これらは単なる演算装置ではなく、ChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)の学習と推論を支える「AIの心臓部」として機能する。

NVIDIA H200は、同社の「Hopper」アーキテクチャに基づき、TSMCの4nmプロセスで製造される。最大の特徴は141GBのHBM3eメモリと4.8TB/sという高帯域幅であり、これは前世代のH100と比較してメモリ容量で約76%、帯域幅で約43%の向上を実現している。この強化により、大規模言語モデルの推論性能はH100の約2倍に達し、1000億パラメータを超える巨大モデルの運用効率が飛躍的に向上した。

NVIDIAの最先端チップ「H200」(NVIDIA)

一方、AMD Instinct MI325Xは「CDNA 3」アーキテクチャを採用し、5nmプロセスで製造される。特筆すべきはその圧倒的なメモリ容量である。256GBのHBM3eメモリはH200の約1.8倍であり、6TB/sの帯域幅も業界最高水準だ。この大容量メモリにより、一つのチップでより巨大なデータセットを処理できるため、特定のAI推論タスクではNVIDIA製品を上回る性能を発揮する場面もある。

今回のBIS新規則で注目すべきは、輸出許可の技術的基準として「TPP(Total Processing Performance:総処理性能)スコア」が明確に定義された点である。連邦官報に公示された規則条文(15 CFR Parts 742, 744, 748)によれば、ケースバイケース審査への移行が認められるのは「TPPスコアが21,000未満、かつ総DRAM帯域幅が6,500 GB/s未満」の製品に限定される。

TPPスコアは、チップのFP16(16ビット浮動小数点演算)性能(TFLOPS)にビット長(16)を乗じて算出される。NVIDIA H200の場合、FP16性能は約989.5 TFLOPSであり、TPPスコアは約15,832となる。AMD MI325Xは約1,300 TFLOPSのFP16性能を持ち、TPPスコアは約20,800である。いずれも21,000の閾値を下回っているため、今回の緩和対象となった。

だが、この基準設定は極めて戦略的と言わざるを得ない。NVIDIAの最新世代「Blackwell(B200)」やAMDの次世代「MI355X」はTPPスコアが21,000を大幅に超えるため、引き続き輸出禁止の対象となる。

つまり米国は、「軍事転用されうるギリギリの高性能」であるH200やMI325Xについては「25%の関税を払わせ、米国内供給を優先させるなら中国に売っても良い」というラインを引いた。最先端技術の流出を防ぎつつ、一世代前の製品で利益を得るという、実利的な輸出管理の姿勢がここに表れている。

日本への影響と今後の展望

米国の方針転換は、日本の半導体産業にとって複雑な影響をもたらす。東京エレクトロンやアドバンテストといった日本の半導体製造装置メーカーは、売上高の30〜40%を中国市場に依存しており、米国の規制動向は事業戦略に直結する。

まず懸念されるのは、米中間の「ディール」が進む中での日本の立場だ。

米国がNVIDIAやAMDに中国市場へのアクセスを認める一方、中国は日本に対して厳しい姿勢を強めている。2026年1月に入り、中国は高市早苗首相の台湾に関する発言を受け、日本向けの「デュアルユース品」輸出規制を発動した。対象にはレアアース(ガリウム、ゲルマニウム、アンチモンなど)や先端電子部品が含まれ、これらは半導体製造の重要原材料である。

日本は中国からのレアアース輸入の約70%を依存しており、2010年の尖閣諸島問題時に経験した供給途絶の再来が懸念される。米国が中国と「取引」を進める中で、日本だけが重要資源の供給を止められるという非対称なリスクが顕在化している。

さらに、米国の新ルールが日本企業にも適用される可能性がある。

米国が中国向け輸出に25%の関税を課す仕組みを導入したことで、同盟国である日本にも同様の「米国への貢献」や「ライセンス料」が求められる圧力が高まりうる。日本の製造装置メーカーは、米国の外国直接製品ルール(FDPR)への対応を迫られ、自社製品が規制対象チップの製造にどこまで関与しているかを厳密に判定する必要がある。

日本企業が警戒しているのは、「米国のNVIDIAは許可されるのに、日本の装置メーカーは不許可になる」といった不平等な運用だろう。経済産業省を通じた日米間でのルール平準化の交渉が急務となっている。

今回の米国の方針転換は、「中国を完全に封じ込める」段階から、「中国から利益を得つつ技術的優位を維持する」段階への移行を示している。日本としては、「米国が緩和したから日本も自由になる」と安易に考えるのではなく、米中間のディールの中で自国産業の利益をいかに守るかが問われている。とりわけ、中国からの資源供給リスクへの対応と、米国との同盟関係における「公平な扱い」の確保が、今後の経済安全保障政策の焦点となる。

 

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