広州公安局、台湾サイバー軍人20名に懸賞金——「法律戦」がサイバー・情報分野へ拡大

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広州公安局、台湾サイバー軍人20名に懸賞金——「法律戦」がサイバー・情報分野へ拡大

中国・広東省広州市公安局が昨年6月、台湾国防部でサイバー戦や電子戦を担当する「資通電軍」の隊員20名に対し、1人当たり1万人民元(約20万円)の懸賞金をかけて指名手配していたことが明らかになった。中国の新華社通信は「公安機関が法執行を通じて台湾独立・分裂勢力に剣を振るったのは初めて」と報じていた。

サイバー戦を口実とした「法律戦」

広州市公安局は6月5日、台湾資通電軍が中国に対するサイバー攻撃を組織的に実施し、複数の違法犯罪行為に関与したと主張。同時に、中国国家コンピューターウイルス緊急処理センター、コンビューターウイルス防御技術国家システム実験室、360デジタルセキュリティ集団が共同で発表した調査報告書では、資通電軍の組織構造、人員構成、勤務地、任務内容、具体的なサイバー攻撃事例などを「暴露」したとされる。

報告書は、資通電軍が「中国大陸及び香港・マカオ地区に対するサイバー攻撃・侵入を専門とし、機密データや重要情報を大量窃取し、米国の反中勢力と連携して世論戦・認知戦を展開している」と断じた。

しかし、台湾国防部はこれらの主張を「根拠なきでたらめ」と一蹴。顧立雄国防部長は「サイバー攻撃で世界一なのは中国だ」と反論している。

エスカレートする「台湾独立強硬派」認定

今回の懸賞金は、中国が展開する「法律戦」の一環として位置づけられる。

中国・国務院台湾事務弁公室(国台弁)は2021年以降、「台湾独立強硬派」リストを順次公開し、制裁対象者を拡大してきた。リストには蘇貞昌・元行政院長、游錫堃・立法院長、蕭美琴・副総統、顧立雄・国防部長ら政治家のほか、2025年3月には「手先・共犯」として一般人の通報を募る専用サイトも開設された。同年11月時点で1万通以上の通報メールが寄せられたという。

2024年5月には最高人民法院、最高人民検察院、公安部、国家安全部、司法部の5機関が共同で「台湾独立強硬派の国家分裂・国家分裂扇動犯罪の法に基づく懲治に関する意見」を発表。台湾独立活動への刑事責任追及の法的根拠を明文化し、最高で死刑を科す可能性を示した。

2026年1月7日には国台弁が新たに劉世芳・内政部長と鄭英耀・教育部長を「台湾独立強硬派」に認定。さらに注目すべきは、台湾高等検察署の陳舒怡検察官を「司法を私物化する台湾独立強硬派」と名指し、「冤罪を捏造して両岸交流を支持する台湾人を迫害した」と非難して証拠提供を呼びかけた点だ。

司法関係者を標的とするこの動きは、中国の「法律戦」が台湾の法執行・司法機関そのものへ圧力をかける段階に入ったことを示している。

中国の圧力は政府関係者にとどまらない。

2024年5月には、黄世聡、李正皓、王義川、于北辰、劉宝傑ら台湾のテレビコメンテーター5名とその家族に制裁を科すと発表。「大陸の人は煮卵も買えない」「大陸の高速鉄道には背もたれがない」といった発言が「虚偽情報の捏造」にあたるとした。

2024年10月には、民間防衛訓練を行う「黒熊学院」を運営する沈伯洋・立法委員(国会議員)と、資金提供者の曹興誠・聯華電子創業者を制裁対象に追加。2025年10月には重慶市公安局が沈氏を「国家分裂罪」で立件捜査すると発表した。

「三戦」の一環としての法律戦

中国人民解放軍は2003年、「世論戦・心理戦・法律戦」を正式な作戦概念として採用した。いわゆる「三戦」である。

法律戦とは、国内法や国際法の解釈を自国に有利なように操作し、敵対勢力の行動を制約するとともに、自国の行動に正当性を付与する戦略を指す。台湾に対しては、反分裂国家法(2005年)、国家安全法、刑法などを根拠に、「台独」活動家への刑事責任追及を「法に基づく」措置として正当化している。

今回の資通電軍への懸賞金も、軍事的対抗措置ではなく「法執行」の形式を取ることで、国際社会に対して「中国は法に基づいて行動している」というナラティブを構築する狙いがある。

中国の法律戦は台湾のみならず、日本にも影響を及ぼし得る。2014年の反スパイ法施行以降、17名の日本人が「国家安全」関連の容疑で拘束され、現在も5名が拘束中とされる。2023年の同法改正でスパイ行為の定義は一層曖昧化しており、研究者やビジネスパーソンが意図せず標的となるリスクが高まっている。

台湾の事例は、中国が情報関係者のみならず、司法関係者、研究者、メディア関係者、さらには一般市民までを「法執行」の名の下に標的化し得ることを示している。日本の安全保障・情報コミュニティ、そして中国関連の取材・研究に携わる者は、この動向を注視する必要がある。

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