中国、SNSで「超高速ナラティブ拡散」——事案発生後24時間で世論統一

中国、SNSで「超高速ナラティブ拡散」——事案発生後24時間で世論統一

中国当局が外交・軍事に関する事象において、公式発表を抑制する一方で、SNSを通じた急速な世論形成を図る手法が常態化している。この「公式は黙る、裏でスイッチを入れる」戦術は、事案発生後24時間以内に国民の9割を同一見解に誘導する効果を持つという。

中国のナラティブ拡散は7段階のステップで進行する。CCTVによる簡潔な報道から始まり、トップインフルエンサーの「暴露」、200~300のミドルクラスアカウントによる同一文の同時投稿、ポータルサイトの解説記事、環球時報の総括、百度・Douyinの熱搜固定と続き、最終的に国民の9割以上が同一見解を持つに至る。

注目すべきは「発信の立ち上がり」の速さだ。立ち上がりが早いほど、中国当局がすでに準備していた証拠となる。図1は、11月7日の高市総理「台湾有事は存立危機事態」発言と、11月27日の「トランプは日本を見放す」発言に関する中国国内の拡散速度を示したものだ。

高市発言の拡散はトランプ発言と比較してやや遅れ、リーチが8割に達するまでに2日間を要した。これは同発言が中国の予想外だったため、当局内部で対応調整が必要だったことを示す。一方、トランプ発言は急速に拡散され、「高市は問題児」というイメージを国内に定着させる目的があったと考えられる。

図2は、本年5月の海警ヘリコプターによる領空侵犯と、11月22日のフィリピン水産資源局航空機による南沙諸島スカボロー礁における中国「領空」侵犯報道の拡散速度を比較したものだ。

尖閣における報道は72時間でリーチが8割を超えたのに対し、南シナ海でのフィリピン機事案は僅か12時間でリーチが7割近くに達した。これは尖閣での「現状維持」追求と、南シナ海での「実効支配強化に向けて待ったなし」という戦略的優先度の違いを反映している。南シナ海では米を後ろ盾とした周辺国の活動が活発化しており、中国の正当性を常にアピールする必要があるためだ。

この超高速ナラティブ拡散の真の目的は「議論そのものを不可能にすること」にある。24時間以内に国民の9割が同じ意見になれば、反対意見は瞬時に袋叩きにされ、後からの反論は届かない。日中間で深刻な事案が発生した際、日本側が「中国側オフィシャルはまだコメントしていない」と様子を見ている間に、中国は「国内世論統一」という勝負を終わらせている。

ライタープロフィール

薗田浩毅
SONODA Hiroki
Seculligenceアナリスト、中国軍事研究家

長崎県出身、元1等空尉。航空自衛隊の司令部や情報専門部隊、防衛省情報本部で中国(軍事)を担当する情報幹部として活躍。退職後、軍事ライターとして「世界の艦船」「丸」「Jウイング」「軍事研究」などに寄稿。2025年11月にSeculligenceアナリストに就任し、「薗田浩毅の中国深層レポート」を連載する。