防衛省防衛研究所は1月20日、英国が2025年9月に公表した防衛産業戦略を分析したコメンタリーを公表した。富川英生理論研究部社会・経済研究室長がまとめた。
英国のスターマー労働党政権は2024年7月の発足時から防衛産業戦略の刷新を公約に掲げていた。前回の戦略は2021年に策定されたばかりだが、ロシアによるウクライナ侵略という安全保障環境の激変を受け、異例の短期間での全面改定となった。コメンタリーは、米国トランプ政権下でのNATO分断リスクを見据え、英国が防衛産業基盤の自立性強化に舵を切った点に注目している。
新戦略の最大の特徴は「英国地盤(UK Based)」企業への完全回帰だ。
2021年戦略で残されていた「バリュー・フォア・マネー(費用対効果)」原則による内外無差別の調達姿勢を放棄し、国内雇用と技能を重視する「社会価値モデル」を適用する。防衛産業は約46万人の雇用を生み、うち約70%がロンドン及び南東部地域以外に分布する。新戦略は防衛を8つの経済成長優先セクターの一つに位置づけ、セントラル・ベルト(スコットランド)からベルファストまで12の高成長産業クラスターへの投資を促進する。
ウクライナ戦訓を反映した迅速イノベーション体制も構築される。2025年7月に設立された英国国防イノベーション機構(UKDI)は、分権的だったイノベーション活動を集約し、「ペースと増産(surge)」への適応能力を強化する。隷下の迅速イノベーション部門(RIU)は、安価で大量生産可能な長距離攻撃ドローンの国内サプライチェーン構築に取り組む。
調達枠組みには「セグメント別アプローチ」が導入される。対象を①主要複合プラットフォーム(戦車・航空機等)、②構成部品アップグレード(センサー・武器類)、③緊急商用技術利用(無人システム)の3つに分類する。2026年3月までに「中央デジタルプラットフォーム」を開設し、一カ所で全契約情報を確認できるシステムを構築する。
軍事戦略本部に国家兵器ディレクター(NAD)が新設され、防衛産業の即応性・強靭性向上に明確な説明責任が付与された。核抑止体制については「トリプル・ロック」として、新原子力潜水艦4隻建造、継続的な海洋抑止の維持、潜水艦への全将来アップグレード提供を確約した。
コメンタリーは、2021年戦略で示された多くの計画が実現されなかった点に触れ、新戦略の実行面での課題が残ると指摘している。
