中国製レーダー、本当に「ガラクタ」か?——ベネズエラの教訓が示す技術と運用の真実

中国製レーダー、本当に「ガラクタ」か?——ベネズエラの教訓が示す技術と運用の真実

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2026年1月3日未明、米軍はベネズエラの首都カラカスへの急襲作戦を敢行し、マドゥロ大統領を拘束した。この作戦で世界の注目を集めたのが、中国製レーダー「JY-27A」の存在だ。「ステルス機を探知できる対抗兵器」として売り込まれていたこのレーダーが、150機以上の米軍機の侵入を許したとされる。報道の多くは「中国製レーダーは米軍に敗北した」「ガラクタだった」と断じているが、JY-27Aが採用する「低周波レーダー」を理解すれば、まったく異なる景色が見えてくる。 ※キービジュアルは中国空軍のレーダーサイト(解放軍報)

低周波レーダーとは何か

現代のステルス機は、火器管制レーダーが使用するXバンド(8〜12GHz)やKuバンド(12〜18GHz)の高周波帯に対して、レーダー反射を極小化するよう設計されている。機体形状の工夫や電波吸収材(RAM)の塗布により、これらの周波数帯では極めて小さなレーダー断面積(RCS)を実現する。

ところが、波長約1mから10mのVHF帯(超短波帯)では状況が異なる。RAMは長い波長には効果が薄い。また、ステルス機の垂直尾翼や翼端の寸法がVHF帯の波長に近いため、共振現象が発生し、比較的強い反射波が生じる。JY-27Aはこの物理現象を利用してステルス機を「見る」レーダーだ。

ただし、低周波レーダーには本質的な弱点がある。長い波長ゆえに分解能が粗く、目標の精密な位置特定や高度測定が難しい。複数の目標が接近している場合の識別には高度な技術が求められ、地形や建造物からの不要な反射波(クラッター)の影響も受けやすい。

つまり、JY-27Aのような低周波レーダーは「広域の早期警戒」には優れるが、単独では戦闘機の精密誘導やミサイル発射には使えない。実戦では、精密追尾が可能な高周波レーダーとの連携、そして熟練したオペレーターが不可欠となる。西側諸国が1950年代に低周波レーダーの運用を終了したのは、まさにこの運用の難しさゆえだった。

VHF帯を使う中国人民解放軍のYJ-27Aレーダー(新華社)

ベネズエラで何が起きたのか

では、なぜベネズエラでJY-27Aは機能しなかったのか。複数の専門家は、装備そのものの欠陥ではなく、運用体制の崩壊を指摘している。

中国軍事専門家でディプロマット誌などに寄稿するリック・ジョー氏は事件直後にXで、「ベネズエラが導入したJY-27は2000年代半ばの旧型だ。2026年初頭の米軍SEAD/EW(敵防空網制圧・電子戦)能力がこれを圧倒するのは当然だろう。そもそも『対ステルスレーダー』は世間が思うような働きをしない。近代的でネットワーク化された地上防空(GBAD)と、複合領域の統合防空システム(IADS)がなければ意味がないのだ」と強調した。

また、電子戦の専門家であり英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)研究員のトーマス・ウィジントン博士も、ウォール・ストリート・ジャーナルへのコメントで、「EA-18Gグラウラー電子戦機はベネズエラの旧式化した防空システムに対抗するのに最適だった」と指摘する。

米海軍のEA-18Gグラウラー電子戦機(Wikipedia)

ベネズエラ軍の防空体制には、構造的な問題が山積していた。ある報告によれば、軍内部の腐敗により整備予算が横領され、訓練は形骸化し、将兵の士気は著しく低下していた。さらに重要なのは、統合防空システム(IADS)が未完成だったことだ。

中国製レーダー、ロシア製S-300VM、欧州製システムが混在し、それらをリアルタイムに連接する指揮統制システムが機能していなかった。加えて、米軍は圧倒的な電子戦能力を発揮した。作戦直前にはカラカス市内で大規模な停電が発生したため、サイバー攻撃の関与も指摘されている。

作戦開始と同時に強力な電子妨害が実施され、ベネズエラ軍のレーダー画面はノイズで覆い尽くされたとされる。米戦略国際問題研究所(CSIS)の衛星画像解析では、防空アセットが「カモフラージュもなく露出した状態で配置されていた」ことが確認されている。

つまり、JY-27Aの「失敗」は①不完全な統合防空システム②訓練・整備体制の崩壊③米軍の卓越した電子戦能力——といった複合的要因によるものだ。同じ装備が適切な運用体制の下にあれば、異なる結果をもたらした可能性は十分にある。

中国空軍と低周波レーダーの70年

中国空軍と低周波レーダーの関係は、実に70年以上に及ぶ。

1950年、上海に設立された中国初のレーダー部隊は、旧日本陸軍が残したVHF帯のレーダー「四式電波警戒機」を使った。同年5月、このレーダーで夜間爆撃に飛来した国民党軍のB-24爆撃機を探知し、ソ連空軍のLa-11戦闘機による要撃で撃墜に成功している。これが中国空軍レーダー部隊の最初の実戦における戦果だ。

上海に設置された日本陸軍の「四式電波警戒機」。500km遠方からB-29爆撃機の編隊を探知するために開発された(解放軍報)

1950年代後半以降、中国空軍はソ連の支援を受け、「遠空」と「近空」という二層構造の防空体制を構築した。「遠空」はVHF帯低周波レーダーによる長距離早期警戒ネットワークを指し、「近空」は高周波レーダーに基づく地上要撃管制(GCI)と地対空ミサイル(SAM)の戦闘エリアを担う。この体制においては、低周波レーダーは常に高周波レーダーとの統合運用が前提とされている。

この基本構造は現在も継承されているが、1990年代以降は高度に自動化されたデータリンクシステムを導入し、地上配備レーダー、早期警戒機、戦闘機、SAMを有機的に連接させている。

そして、中国電科38研究所は2025年5月、JY-27Aの後継モデル「JY-27V」を公開した。同研究所の徐海洲氏は、低周波レーダーが従来抱えていた4つの課題、すなわちクラッター処理、地形に応じた伝播特性調整、覆域の不連続、分解能の低さを「洗練されたインテリジェント・アルゴリズム」によって解決したと述べている。70年以上にわたる運用で蓄積した膨大なデータをAIに学習させた成果と見られている。

しかし、ベネズエラ軍には、こうした長年の蓄積も、継続的な技術革新も存在しなかった。

VHF帯を使った中国人民解放軍のJY-27Vレーダー(新華社)

日本にとっての教訓

中国の低周波レーダー能力を過小評価すべきではない。中国空軍は東シナ海・南シナ海沿岸部に多数の低周波レーダーを配備しており、高周波レーダー、早期警戒機、SAMシステムと統合された多層的な防空ネットワークを形成している。航空自衛隊のF-35が持つステルス性を減殺し、遠距離からの探知・迎撃を企図していることは明らかだ。

また、レーダー運用の思想が異なることも認識すべきだろう。航空自衛隊の警戒管制ネットワークは高周波レーダーのみで構築されている。一方、中国空軍は低周波と高周波を組み合わせた独自の体制を70年以上かけて発展させてきた。西側の基準だけで中国のシステムを評価することには限界がある。

そして何より、ベネズエラ軍の事例を人民解放軍全体に一般化することには意味がない。ベネズエラ軍は腐敗し、訓練は形骸化し、統合防空システムは機能していなかった。これらの条件は、現在の人民解放軍には当てはまらない。

「中国製レーダーはガラクタ」という結論は、センセーショナルではあるが、現実を見誤らせる。ベネズエラの事例が示しているのは、高度な装備も適切な訓練や運用体制なしにはその性能を発揮できないという普遍的な教訓であり、中国の技術力や運用能力の欠如ではない。

必要なのは、センセーショナルな報道に惑わされず、人民解放軍の実態を冷静に分析し続けることだ。装備の真価はスペックだけでは測れない。それを運用する人間と組織の能力にこそ、本質がある。

ライタープロフィール

薗田浩毅
SONODA Hiroki
Seculligenceアナリスト、中国軍事研究家

長崎県出身、元1等空尉。航空自衛隊の司令部や情報専門部隊、防衛省情報本部で中国(軍事)を担当する情報幹部として活躍。退職後、軍事ライターとして「世界の艦船」「丸」「Jウイング」「軍事研究」などに寄稿。2025年11月にSeculligenceアナリストに就任し、「薗田浩毅の中国深層レポート」を連載する。