中国「三戦」の意外な脆弱性 硬直化した組織が招く「逆プロパガンダ」

中国「三戦」の意外な脆弱性 硬直化した組織が招く「逆プロパガンダ」

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2026年1月3日、中国共産党の理論誌『求是』のオフィシャルサイト『求是網』に掲載された論評「思想の陣地意識を強化し、強軍の物語を語る」が、人民解放軍のメディア戦略が抱える深刻な矛盾を浮き彫りにしている。「三戦」とは、解放軍が用いる世論戦、心理戦及び法律戦の非物理的戦術を指す。戦わずして勝つことを追求する解放軍のドクトリンだ。

新華社記者が執筆したこの記事は、習近平国家主席が『解放軍報』創刊70周年に寄せた祝電をベースに、軍の宣伝部門が「強軍思想」の徹底とネット上の「思想の陣地防衛」を誓う内容だ。だが、この教条主義的な国内向け発信の裏で、解放軍の海外SNS戦略は躓いている。

海外SNSで露呈した「適応力の欠如」

中国国内では「グレート・ファイアウォール」による情報統制下で、共産党・解放軍のナラティブを独占的に発信できる。『求是網』の論評も、習近平の「強軍思想」を軍内に浸透させる意図で書かれたものだ。

ところが海外では別だ。近年、X(旧Twitter)に登場した解放軍の公式アカウントは数万のフォロワーを獲得し、洗練された演習映像を英語で発信している。しかし、「国際社会からの理解」という目的に照らすと、惨憺たる状況と言わざるを得ない。

投稿の大半は共産党スローガンの直訳で、X上では嘲笑の的となっている。

国防部アカウント(@MND_China)には「ゴミ投稿を吐き出す偽アカウント」「稚拙な脅し」といった辛辣なリプライが殺到。開設直後には重複投稿でスパム判定を受けた。党の思想統制が国際プラットフォームに全く適応できていないのだ。

「党への忠誠」が海外広報を殺す

この失敗の根源は「強軍思想」一辺倒にある。軍内の思想教育を優先するあまり、広報の評価基準が「党への忠誠」に固定され、海外広報に必要な柔軟性を失った。

国内向け宣伝部門の人事評価は「思想的正統性」が基準になる。海外SNS担当者にも適用されるため、「党の方針を正確に伝える」ことが最優先され、「現地の受け手にどう響くか」という視点は消える。アルゴリズムへの無理解も、この硬直したシステムの産物だ。

この矛盾は、中国が推進する「三戦」(世論戦・心理戦・法律戦)の脆弱性を物語る。

日本では「三戦」の脅威ばかりが語られるが、注視すべきは構造的制約だ。宣伝部門が国内向けナラティブをそのまま海外に流せば、それは単なる「プロパガンダの輸出」でしかない。
SNSに小慣れた層からは、上述のとおりオモチャにされる。

日本が読み解くべき「弱点」と「進化の兆し」

もちろん、解放軍の海外SNS工作は初期段階にある。今後はより巧妙に、より洗練された「ソフトな発信」へと進化する可能性が高い。その僅かな変化を見落とさないためにも、継続的な観察が必要だ。

重要なのは、当局によるプロパガンダを単なる「毒」として切り捨てるのではなく、その中に含まれる「真意」や「構造的弱点」を読み解くことだ。今回の事例が示すのは、中国の情報戦能力には技術的洗練さと並行して、思想統制に起因する本質的な限界が存在するという事実である。

日本としては、この構造的制約を理解した上で、中国の情報戦の進化を冷静に追跡し、効果的な対策を講じることが求められるだろう。特に注視すべきは、党の統制が緩和される兆候や、海外SNS担当部門の独立性向上の動きだ。これらは「三戦」の実効性が飛躍的に高まるシグナルなのだ。

ライタープロフィール

薗田浩毅
SONODA Hiroki
Seculligenceアナリスト、中国軍事研究家

長崎県出身、元1等空尉。航空自衛隊の司令部や情報専門部隊、防衛省情報本部で中国(軍事)を担当する情報幹部として活躍。退職後、軍事ライターとして「世界の艦船」「丸」「Jウイング」「軍事研究」などに寄稿。2025年11月にSeculligenceアナリストに就任し、「薗田浩毅の中国深層レポート」を連載する。